私自身、AIに丸投げした自動売買システムを運用している側の人間です。だからこそ、SNSで流れてくる「月利10%のAI自動売買」「ほったらかしで資産倍増」の類いの広告が気になって仕方ありません。同じジャンルの看板を掲げているのに、書いてある数字の桁が違いすぎるからです。

結論から言うと、月利10%が続く商品は統計的に存在しません。そしてそれは、専門知識がなくても電卓ひとつで確認できます。

まず電卓を叩く

「月利10%」を素直に複利で回してみます。

  • 1年: 1.1の12乗 = 約3.14倍(年率+214%)
  • 10年: 1.1の120乗 = 約9万2,700倍

つまり100万円を預けて10年放置すると、約927億円になる計算です。

比較対象を置きます。世界で最も有名な投資家であるバフェット氏の長期成績は年率約20%で、これを60年続けたことが「世界一」の根拠です。年率20%だと10年で約6.2倍。月利10%は、その世界一を1年目から10倍以上ぶっちぎる数字です。

ここで矛盾に気づきます。そんな手法を本当に持っている人は、10年で927億円になるのだから、あなたの3万円のツール代を必要としていません。手法を売る・会員を集めるという行動自体が、「その手法では稼げていない」ことの証明になっているわけです。

ちなみに控えめな「月利3%」ですら年率42%、10年で34倍です。月利という単位で語られた時点で、まず疑ってかかるのが正解です。

「AIだから可能」は成立しない

最近の広告は、ここに「AI」を足してきます。「AIが相場を予測するから人間には不可能な利回りが出せる」という理屈です。

AIで自動売買システムを実際に作った立場から言うと、これは逆です。うちのAIに「必ず勝てるツールを作ってくれ」と頼んだら、返ってきた最初の答えが「必ず勝てるツールは存在しません。誠実な期待値はネット年率0〜10%です」でした。AIは市場の統計をよく知っているからこそ、儲け話をしないのです。

そもそもAIが本当に予測精度で優位を持つなら、その優位は巨額の資金を持つヘッジファンドが先に使い尽くします。世界最高峰のクオンツファンドですら、月利10%を何年も続けた公開実績はありません。「AI」という言葉は、中身を検証できない人に対する信用の飾りとして使われているだけです。

実際の口座はどうなっているか

では現実の個人トレーダーの成績はどうか。うちのAIが戦略を作る前に集めた、実口座ベースの統計があります。

  • フランスの金融規制当局が実際の口座14,799件を4年間追跡した調査: 89%が損失。負けた人の平均損失は約1万ユーロ
  • 日本の金融先物取引業協会の四半期統計(2015〜2025年の44四半期): 平均で毎四半期55.5%の口座が資産を減らしている
  • 台湾株式市場の全取引データを使った研究: デイトレーダーで手数料控除後に恒常的に利益を出せるのは1%未満

これは「下手な人」の統計ではなく、市場参加者ほぼ全体の統計です。大多数が負けている市場で、「買った人全員が月利10%」という商品が成立する余地はありません。

詐欺以前に、違法であることが多い

もうひとつ知っておいて損がないのが法律の線です。私がこのブログや本を出す前に、AIにまず金融商品取引法の境界を調べさせました。

個別の売買タイミングを特定の人に有料で助言すること、会員制・クローズドな場での売買シグナル配信は、投資助言・代理業の登録なしにやると違法(懲役5年以下)です。「私のシグナル通りに売買すれば儲かります」系のサービスは、ほぼこの類型に入ります。

典型的な導線はこうです。SNSで儲かっている風の生活を見せる → 「無料で教えます、LINEに登録してください」→ クローズドなグループに誘導 → 有料ツールやシグナル配信、あるいは海外の無登録業者への入金。この先にあるのは、無登録営業か詐欺か、その両方です。特定の誰かの話ではなく、消費者庁や金融庁が繰り返し注意喚起している定型パターンです。

じゃあ正当な期待値はいくつなのか

誇張のない数字を書いておきます。

  • 全世界株式のインデックスに長期投資した場合の歴史的なリターンは、年率で数%〜せいぜい7%前後
  • うちの自動売買システムがAI自身に見積もらせた誠実な期待値は、ネット年率0〜10%。悪い年はマイナスもある

「年率」です。月利ではありません。まともな運用の世界では、年10%出れば上出来という相場観がすべての前提です。月利10%という数字は、この世界の住人が絶対に口にしない単位なのです。

自衛チェックリスト5項目

儲け話に触れたとき、この5つだけ確認してください。

  1. 「月利」で語っていないか。 まともな運用成績は年率で語られます
  2. 複利で10年計算してみる。 1.1の120乗のように電卓で伸ばして、資産が数百億円になるなら、その数字は嘘です
  3. 金融庁の登録を確認する。 有料の助言・シグナル配信には投資助言業の登録が必要です。金融庁のサイトで登録業者は検索できます
  4. 「必ず」「保証」が出てきたら即終了。 利益の断定的判断の提供は法律で禁止されています。守っていない時点で違法業者です
  5. クローズドな場(LINEグループ・会員制サロン)へ誘導されたら降りる。 誰でも検証できる公開の場で成績を出せない理由を考えてください

うちのシステムがフォワードテストの成績を毎日GitHubに自動記録して公開しているのは、この5番の裏返しです。検証できない成績には、良くも悪くも意味がないからです。


このシステムをAIに丸投げで作った一部始終(負けの統計、戦略選定、実弾投入前に見つかった致命的バグ6件まで)は、書籍『AIに資産運用を丸投げしてみた』(Kindle 500円・読み放題対象)にまとめてあります。

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