本記事は法令・公的公表資料に基づく一般的な情報の整理であり、法律相談・投資助言ではありません。

このブログは「完全放置の資産運用」を掲げて、国内の取引所にビットコインを置きっぱなしにしています。だったら、この質問から逃げるのは筋が通らない — その取引所が潰れたら、どうなるのか。

調べた結論を先に言うと、「分別管理があるから安心」でも「取引所に置くのは自殺行為」でもありませんでした。条文と、実際に起きた3つの事件の結末を順に見ていきます。

日本の制度は4層でできている

国内の登録済み暗号資産交換業者には、資金決済法でこういう建て付けが義務づけられています。

  1. 預けた日本円は、信託銀行へ(63条の11第1項)。取引所自身の金庫ではなく信託に置くので、取引所が飛んでも取引所の債権者に取られない。bitbankもCoincheckも、信託先は日証金信託銀行だと公表しています
  2. 預けたコインは分別管理し、原則コールドウォレットへ(63条の11第2項)。ネットに接続しない管理が原則で、ホットウォレットに置いていいのは内閣府令で利用者資産の5%以内の「必要な最小限度」だけ。金融庁のガイドラインは「一度でもインターネットに接続したことのある機器はコールドウォレットに該当しない」とまで書いています
  3. ホットに置いた分と同じ種類・数量のコインを、会社の自腹で積む(履行保証暗号資産・63条の11の2)。ホットが抜かれても見合いが残る設計
  4. それでも破綻したら、利用者は他の債権者より先に弁済を受ける権利を持つ(優先弁済権・63条の19の2。令和元年改正で新設)

紙の上では、かなり手厚い。では実際に事件が起きたとき、この紙はどこまで機能したか。

実際に起きた3つの結末

① FTX Japan(2022年)— 返ってきた。 親会社の米FTXが破綻した2022年11月、日本法人は行政処分下でサービスを停止しましたが、日本円は信託口座に、コインは分別されたコールドウォレットにありました。2023年2月21日に出金が再開され、2月末時点で5,400名超・約96.9億円の出金処理が完了しています(当時のCOOインタビュー)。ただし全員ではありません — モバイルアプリ経由で海外のFTXを使っていた利用者は「分別管理の対象外(資産返還の対象外)」とされました(東洋経済の報道では10億円超)。同じアプリから入っても、取引相手が海外法人なら日本の規制の外です。

② FTX本体(米国)— 「118%返る」の正体。 米国のChapter 11では、顧客のコインは申立日(2022年11月11日、BTC≒1万6千ドル)の価格でドル建てに換算されました。小口債権者は額面の約118%を現金で受け取る計画ですが、ビットコインはその後数倍になっています。額面118%でも、現物で持ち続けた場合と比べれば大幅な目減りです。日本の制度が「現物を返す」方向に作られているのと、ここが決定的に違います。

③ マウントゴックス(2014年)— 12年経ってもまだ終わっていない。 分別管理義務も優先弁済権も無かった旧法時代の事案です。紆余曲折の末に2024年7月からビットコイン現物での弁済が始まりましたが、再生管財人の公表によれば2025年10月時点で「概ね完了」しつつ「受領できていない再生債権者が未だ多数存在」し、弁済期限は2026年10月31日まで延長されています。制度が無い時代に巻き込まれると、10年単位の時間が消えます。

DMMビットコインが教える、制度の一番の穴

2024年5月、DMM Bitcoinから4,502.9BTC(約482億円)が不正流出しました。顧客は1円も損をしませんでしたが、その理由は重要です — 分別管理が守ったのではなく、DMMグループが550億円を調達して穴を埋めたからです(日経の報道)。同社はその後廃業し、口座はSBI VCトレードへ移管されました。

分別管理は「現物がちゃんと在ること」を守らせる制度で、ハッキングで現物が消えたときに誰かが補填してくれる制度ではありません。優先弁済権も「残っているものを優先的に分け合う」権利なので、現物が減っていれば分け合う対象も減ります。履行保証暗号資産がカバーするのもホットウォレット相当分だけです。DMMの顧客が無傷だったのは、制度ではなく資本のおかげ — 後ろ盾のない業者が同じ事故を起こしたらどうなるかは、まだ誰も知りません。

この穴を正面から埋めにいくのが2026年7月に成立した改正金商法で、暗号資産の規制は資金決済法から金商法へ移り(分別管理は新43条の14、優先弁済権は新43条の17に移植)、不正流出時の補償原資となる「金融商品取引責任準備金」の積立(新46条の5)が新設されます。施行は公布から1年以内(2027年7月22日まで)に政令で定める日、積立率は内閣府令待ちです。

正直に書いておくべきこと

  • bitbankもCoincheckも、自社サイトに「破綻した場合、資産を返還できない可能性がある」と明記しています。制度の解説より、当事者のこの一文のほうが誠実な要約かもしれません
  • 円の信託にはタイムラグがあり、bitbankは「必ずしも全額が信託保全されていない場合がございます」と注記しています
  • 優先弁済権が国内の破産手続で実際に行使された例は、調べた範囲では見つかりませんでした。FTX Japanは行政処分下の返還、DMMは事業譲渡で完結し、いずれもこの権利の出番はありませんでした。制度は用意されているが、実戦でどう機能するかは未検証です
  • 現物が返せない場合に「金銭や他の暗号資産で払い戻す」方針をあらかじめ公表することが業者に義務づけられています。つまりBTCで預けてもBTCで返ってこないシナリオは、制度自体に織り込み済みです

結論: どちらのリスクを取っているか、言語化しておく

  国内の登録業者に置く 自分でウォレット管理
取引所の破綻・流出 リスクあり(上記の制度で緩和) 無関係
秘密鍵の紛失・誤操作 無関係 全損。誰も助けない
相続・引き継ぎ 手続きあり 鍵を遺せなければ消滅

私は月1万円・少額の実弾運用を国内登録業者に置いています。つまり「取引所リスクを取り、鍵の自己管理リスクを避ける」選択です。金額が大きくなれば判断は変わりうるし、それはこのブログで正直に書きます。大事なのは「なんとなく置きっぱなし」ではなく、自分がどちらのリスクを選んだのか説明できる状態にしておくことだと思います。


本記事は2026年9月1日時点の法令・公表情報に基づきます。条文は資金決済法・暗号資産交換業者に関する内閣府令、改正金商法は金融庁公表の法律案を参照。暗号資産は価格変動により損失が生じるおそれがあります。詳細は免責事項をご覧ください。