仮想通貨の自動売買が儲からない理由を、実測で説明する — 改良案を12個試して、採用できたのは0個だった
目次
本記事は私自身の運用の記録であり、投資助言ではありません。掲載する数字は特定期間・特定の計算条件による検証値で、将来の成果を示すものではありません。暗号資産は価格変動により損失が生じるおそれがあります。
結論を3行で。
- 自動売買を実弾で回しながら、「もっと儲かるはず」の改良案を12個検証しました。実弾に採用できたのは0個です。
- 儲からない主因は手法の当たり外れではありませんでした。①効きそうな追加は、検出に成功しても損益が増えない ②「過去に一番よかった設定」を選ぶ行為そのものが期待値マイナス ③改善できるコストは、口座が小さいと年に数円、の3つです。
- 実弾の成績も書きます。2026年9月2日時点で+13円。同じお金をただ積み立てた場合は+584円で、負けています。
「儲からない」の検索結果に、自分の負けを足しに来ました
「仮想通貨 自動売買 儲からない」で検索して出てくるのは、たいてい高額ツールを買って損した体験談です。それは正しい警告だと思いますが、私が書けるのは別の話です。私はツールを買わずにAI(Claude)に自作させたボットを、自分の口座で動かしています。中身は全部見えるし、検証の生データも手元にあります。
だから「儲からない」の理由を、実際に測った数字で書けます。これがこの記事の全部です。
儲かりそうな改良案を12個試した結果
運用を任せているAIに「自分の戦略を疑え。もっと儲かる方法があるなら全部潰せ」と指示して出てきた仮説と、その結末です。検証の中心は2019年2月〜2026年9月(7.53年)の日足に、手数料と滑りを込みで当てたものです(仮説によってはデータの都合で期間が短くなります)。
| 試した改良案 | 結果 | 一行の理由 |
|---|---|---|
| 下げ相場では売りも建てる | 棄却 | 7.5年でネット−44.4%pt。建玉金利をゼロにしても値動きだけで−17.2%pt負ける |
| 移動平均の本数と長さを選び直す | 変えない方がよい | 2,366通りで検証。前半の最良は後半で下位17% |
| 下落を検出してもっと早く逃げる | 棄却 | 67構成中、改善は7つだけ。平均39日早く逃げられたのに損益は増えない |
| 下げたあと早く買い戻す | 保留 | 数字は出たが、効いた場面が過去7.5年で3回しかなく判定できない |
| 週足のトレンド確認を重ねる | 棄却 | 16構成すべて負け。同じ長さの日足に置き換えた方が良い |
| 海外の資金調達率をシグナルに使う | 保留 | 40検定すべてで予測力ゼロ。価格だけの内製版との差は5.8年で7,779円 |
| 入金のタイミングを月内で分ける | 棄却 | どう割っても必ず損。改善する確率は2% |
| 判断する時刻を変える | 変えない方がよい | 24通りでSharpeは0.90〜1.00の幅、現行は6位/24 |
| 注文の出し方をもっと上手くする | 現状維持 | 残っている改善余地は年+0.02%(口座15,000円で年3.2円) |
| レバレッジを2倍まで使う | 改善なし | Sharpe 1.03→1.02。リターンは増えるがリスクが同じだけ増えるだけ |
| 銘柄を増やして分散する | 並走中(実弾には未投入) | 唯一リスク調整後が改善したが、別データでは10組中6組しか勝たない |
| 緊急停止の水準を見直す | 現行値のまま | 7.5年2,748判定日で発動0回。約75年に1回 |
12個やって、実弾に入ったものはありません。 直感的にいちばん正しそうなものから順に否定されていきました。以下、この表から読み取れた「儲からない理由」を3つに絞って書きます。数字の一覧は研究ノートに、8つの仮説を1日で検証した日の記録はAIに「自分の戦略を疑え」と言ったら、8つの仮説を1日で検証して5つを捨てたに置いています。
理由①: 検出に成功しても、損益は増えない
一番効いた発見はこれです。「下落を早く検出して逃げる」という改良は、検出そのものは成功しました。高値からの下落に対する反応の遅れは−27.8%から−11.5%へ、平均で39日早く逃げられるようになっています。
それなのに損益は増えませんでした。67通りの作り方でSharpe(リスク1単位あたりの収益)が改善したのは7つだけ、中央値は−0.05です。分解するとこうなっていました。
| 内訳 | 損益への寄与 |
|---|---|
| 本当に下げた場面で早く逃げられた分 | +34.4pt |
| 下げなかったのに逃げた分(空振り) | −36.0pt |
| 差し引き | −1.7pt(53区間中37敗) |
当たったときの利益より、空振りの損の方が大きい。 週足のトレンド確認を重ねる案でも同じ機序が出ました。下落中の発動は合計+165.4pt稼いでいるのに、それ以外の発動が−441.6ptを持っていき、合計は−276.1ptです。しかも2週以下で終わってしまう短命な転換からの発動は全体の20%しかないのに、そこだけで−301.9ptを失っていました。
自動売買の宣伝は「下落を検知して回避」を売り文句にしがちです。でも測るべきは検知率ではなく、空振りを込みにした損益です。ここを混同すると、精度の高い装置を作って損をします。
理由②: 「過去に一番よかった設定」を選ぶ行為が、期待値マイナス
これが、バックテストでは儲かるのに実弾で儲からないことの正体でした。
移動平均の本数と長さを2,366通り総当たりして、前半期間と後半期間の成績を突き合わせました。結果、両者の順位相関は負です(Sharpe −0.30 / Calmar −0.61)。前半に一番良かった設定は、後半では下位17%に沈みます。
「上位k件を選んで使う」という戦略も試しましたが、kをどう変えても「選ばない(最初の設定のまま使う)」に負けました。つまりパラメータを選び直す行為そのものが、体系的に損をする側に回ります。
なお現行の設定が特別に良いわけでもありません。2,366通りの中で上位70%程度の「台地」にいるだけで、近傍を±20日動かした81通りのうち53%は現行より上でした。頂上を探すこと自体に意味がなかった、というのがこの検証の結論です。
売られている自動売買ツールの「バックテストで年利◯%」は、ほぼ全部この問題を通過していません。過去のデータに一番よく当たる設定を探して見せているだけなら、それは未来に対して負の相関を持つ選び方です。
理由③: 改善できるコストは、口座が小さいと年に数円
「手数料と滑りを削れば勝てる」も検証しました。うちは注文を朝に指値で置き、夜まで約定しなければ成行で埋める作りです。実測はこうでした。
- 指値が通る率(メイカー率)98.4%。BTC/JPYのメイカー手数料は0%なので、テイカー手数料0.10%のほぼ全部を回収済み
- 現行の作りは「朝すぐ成行」より1件あたり+9.05bp、年率+1.21%得ている
- 残っている改善余地は年+2.14bp = 口座15,000円で年3.2円
年に3円です。年1,000円の改善に届くには、口座が466万円必要でした。指値の刻み(1円)は手数料の約1万分の1しかないので、指値を何円ずらしても結果は小数点以下まで同じでした。
これは「執行の工夫は無意味」という意味ではありません。もう終わっているという意味です。ここから先に労力を割く価値は、口座の規模に対して残っていませんでした。逆に、口座が小さいうちに執行の細部を触り続けるのは、時間の使い道として最悪だとも言えます。
そして実際に失ったお金の主因は手数料ではありませんでした。8月21日に注文が板に載らないまま1日が終わり、246円(当時の口座の4.7%)を取り逃しています。執行の改善余地(年3.2円)の約77年ぶんです。儲からない要因の順位は、事故 ≫ 手数料でした。
「下げでも稼げる」は、コストをゼロにしても負けた
読者の期待がいちばん大きいであろう案も、はっきり否定されました。「上げでも下げでも稼げる」ようにするために、下げ局面で売りも建てる構成です。
| 運用 | CAGR | 最大の下落 | Sharpe | 7.5年の損益 |
|---|---|---|---|---|
| 買いだけ(現行) | +40.4% | −42.8% | 1.04 | +220.6万円 |
| 買い+売り | +25.6% | −52.3% | 0.73 | +92.9万円 |
| 全世界株の指数を積み立て | +18.7% | −33.9% | 1.16 | +118.3万円 |
売りを足すと損益は半分以下になり、しかも最大の下落は42.8%から52.3%へ深くなります。「下げで稼げる分だけ下げに強くなる」はずが逆でした。建玉の金利をゼロにしても値動きだけで−17.2%pt負けているので、コストの問題ですらありません。
この表の最終行(全世界株の指数)を検証で上回れたのは、戦略の中身を1文字も変えない案だけでした。毎月の積立をこの戦略と全世界株で半分ずつに分けると、Sharpeは1.04から1.18へ(指数は1.16)、最大の下落は42.8%から27.9%へ変わります。ただし金額は50.9万円少なく、まだ実行していません(12個目の仮説で初めて全世界株に勝った)。
実弾はどうなっているか
同じ粒度で自分の成績も出します。2026年9月2日時点、累計入金15,274円に対して。
| 運用 | 評価額 | 損益 |
|---|---|---|
| ただ毎月積み立てる(ガチホ) | 15,858円 | +584円 |
| 毎日積み立てる | 15,330円 | +56円 |
| AIの自動売買(うち) | 15,287円 | +13円 |
負けています。 この14日は上げ相場で、私の戦略は下げを浅くする設計なので上げ相場では構造的に出遅れます。それでも「今は負けている」と書かないなら、この記事に説得力はありません。数字は成績ページに毎朝自動更新されます。
同じ失敗をしないためのチェックリスト
「自動売買で儲かる」という話を検討するとき、あるいは自分で作るときに、私が実際に使っている確認項目です。
- その改良を「検出の精度」ではなく「損益」で測ったか。 空振りを含めて合計するとマイナスになる改良が実在します
- データを前半と後半に割って、前半で選んだ設定が後半でも勝つか確かめたか。 うちの検証では相関が負でした
- 改善額を「%」ではなく「自分の口座の円」に直したか。 年+0.02%は口座15,000円なら年3.2円です
- リスクを増やしただけの改善になっていないか。 露出(投じている割合)を揃えた比較対象を置かないと、ただの倍賭けが「改善」に見えます
- 効いた場面が何回あったか数えたか。 3回しかないなら、それは偶然と区別できません
- 手数料を入れたか。 成行だけで往復0.2%です。年利数%を狙う戦略なら、これだけで期待値が消えます
- 負けた検証を消さずに残しているか。 残っていない検証記録は、都合の良い結果だけを見せている可能性があります
7番目が一番大事だと思っています。私が信用できると思う運用記録の条件は、勝った数字が大きいことではなく、捨てた仮説が名前つきで残っていることです。だからうちは研究ノートに棄却も全部並べています。
この記事の限界
- 検証期間は7.5年ぶんで、本格的な弱気相場は2回しか含まれていません
- 「儲からない」の理由として書いたのは、私の戦略で測った数字です。他の手法に自動的に一般化できるものではありません
- ただし「他市場でも同じか」は確認していて、同じルールを一文字も変えずに10市場へ当てると、最大下落は10市場すべてで浅くなり、リターンが上がったのは3市場だけでした。リターンを増やす道具ではないという結論はここでも同じです
- 税引前です。実弾で確かめられているのは2026年8月19日以降の分だけです
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